IPOを買うかどうか判断するために、目論見書を見ることになります。しかし、目論見書はページ数がとても多いので、どこを見ればよいのかを分からない人も多いはずです。
目論見書(もくろみしょ)には、新規に上場する会社のIPO募集要項、事業内容、業績、財務諸表などが記載されています。
ここには、多くの重要項目が書かれていますが、100ページを超えることも多く、読み込むのにはとても大変です。
しかし、最低限必要な項目だけを見ることができれば、IPOを買うかどうかの判断をすぐに行うことができます。
つまり、全体的に勝率の高いIPOでも、中には損をするIPO銘柄もあります。目論見書の見方を覚えれば、そのような銘柄を早く見つけることもできるのです。そうすれば、損をする可能性がぐっと低くなります。
そこでこのページでは、IPOで損をしないための目論見書の見方を5つ解説します。その後、目論見書以外で初値に影響する要因を2つお伝えします。
目次
IPOの目論見書とは
目論見書(もくろみしょ)には、新規に上場する会社のIPO募集要項、事業内容、業績、財務諸表などが記載されています。
これは、ネット証券などで、PDFファイルから内容を確認することができます。ちなみに、上の画像は、SMBC日興証券から目論見書を確認するところです。
目論見書は、株主に新しい株を買ってもらうために、上場する会社が必要な情報を伝えた内容になります。この情報をもとに、株主はIPOを買うかどうかを判断することになります。
IPOで損しないために目論見書の見るべき5つのポイント
管理人がIPOを申し込む前に、目論見書で確認しているポイントは次の5つです。
1.IPO企業の上場する株式市場はどこか
2.IPOの当選本数、上場規模
3.IPO企業の事業内容(強みや独自性、新規性)
4.IPO企業の過去5年以上の企業業績
5.IPOの株主構成、ロックアップ契約
以下、内容を順番に見ていきましょう。
1.IPO企業の上場する株式市場はどこか
IPO投資をするとき、初値が高くなると儲けが大きくなります。初値が高くなるかは、上場する株式市場がどこかが大きく関係しています。
ここで、日本の代表的な株式市場として、東証1部、東証2部、マザーズ、ジャスダックがあります。マザーズやジャスダックは新興市場であり、今後の成長が期待されているベンチャー企業などが多く上場します。
結論から言うと、マザーズやジャスダックに上場するIPOを初値売りすると大きな利益が期待できます。
以下の画像は、2016年7月に上場した無料対話アプリを運営する「LINE」を始点にして遡り、過去1年間のIPO投資の全成績をまとめています。これは、ヤフーファイナンスからデータを取得して、売買単位は1単位100株のときです。初値売り利益とは、買うときの「公募価格」から売るときの「初値」を引いた値です。
実際に、マザーズの初値売り利益平均は、20万円を超えていて高いことが分かります。ジャスダックに関しても、初値売り利益平均は6万円後半であり、やや高い儲けとなります。
一方、東証1部や東証2部の初値売り利益平均は、2万円前後で低いことが分かります。
このように、IPO投資をするときに、市場の違いで儲けやすさが変わります。目論見書を見るときには、どこの株式市場に企業が上場するかを必ずチェックしましょう。
2.IPOの当選本数、上場規模
IPOの当選本数が少なく、上場規模が小さいほど、初値が高くつきやすくて儲けが大きくなります。
なぜなら、当選本数が少なくて上場規模が小さい方が、銘柄の買いに投資家が集中するからです。つまり、上場する銘柄の売りより買いが多くなるため、初値が上昇するのです。
もう少し詳しく、上場規模、当選本数の関係についてお伝えします。
IPOの上場規模と当選本数の関係
上場規模は、「想定価格」×「当選本数」を見れば、おおよその規模感がわかります。
想定価格とは、IPOの予定価格のことであり、買うときの「公募価格」に近い値になります。
例えば、想定価格は2,000円前後になることが多いです。一方、想定価格が1,000円を下回るときや3,000円を上回るときもあります。
そのため、「想定価格」と「当選本数」の両方を見ておいた方が、上場規模を把握しやすいです。
このとき、想定価格はすぐにわかるのですが、「当選本数」は少し計算が必要になります。
IPO当選本数の計算方法
IPOの当選本数は、以下の式で計算できます。
IPO当選本数={公募株数+売出株数(オーバーアロットメント含む)} ÷ 売買単位100株
公募株数とは、資金調達をするために、新しく発行された株数のことです。
売出株数とは、創業者などの既存株主が、株の一部を売りに出す株数のことです。
オーバーアロットメントとは、証券会社が株主に株を借りて、IPO時に売りに出す株のことです。想定以上の需要があったときに、この株が売りに出されます。これも、売出株数に含まれます。
例:「RPAホールディングス(6572)」の目論見書からIPO当選本数を計算
実際に、「RPAホールディングス」を例に、IPOの当選本数を計算してみましょう。
①公募株数の確認
目論見書の最初の方のページにあります。画像のとおり、「RPAホールディングス」の公募株数は50,000枚です。
②売出株数の確認
公募株数について書かれたページが終わると、「売出要項」に話が進みます。画像のように、売出株数は、200,000株数です。
次に、オーバーアロットメントの記載があるのですが、今回のIPOではありませんので、売出株数は以上になります。
ここで、「訂正事項」に、売出株数の変更などが入ることがありますので注意が必要です。
「RPAホールディングス」の目論見書では、別のPDFファイル「訂正事項」に売出株数の変更が入っています。
画像のように、売出株数は200,000株数から550,000株数に訂正されています。
このように、変更が入ることもありますので、「訂正事項」も確認をしておくべきです。
③当選本数の計算
公募株数が50,000株数で、売出株数が550,000株数ですので、当選株数は600,000株数になります。
売買単位が100株ですので、当選本数は6,000本と計算ができます。
補足ですが、当選本数6,000本は、やや当たりにくいIPOになります。
IPOの当選本数と初値の関係
当選株数(売出株数+公募株数) | 当選本数(売買単位100株) | 当選しやすさ | 初値上昇 |
100万株数未満 | 1万本未満 | 小 | 大 |
100万株数以上200万株数未満 | 1万本以上2万本未満 | 中 | 中 |
200万株数以上 | 2万本以上 | 大 | 小 |
当選本数が2万本を下回る場合は、当選本数が少ないので、大きな初値上昇が期待できます。
なぜなら、IPOの抽選に多くの人が外れて、上場後に買う投資家が多くて初値が高くなりやすいからです。
ここで、IPOの当選本数が多いときと少ないときを例に、初値を見てみましょう。
例1.IPOの当選本数が少ない銘柄は、初値が大きく上昇
2016年12月に「セグエグループ」が上場したときを例に説明します。「セグエグループ」の事業内容は、ITインフラおよびネットワークセキュリティ製品に係る設計、販売、構築、運用・保守サービスです。
「セグエグループ」の公募価格は1,700円、初値が5,500円でしたので、100株取得で初値売りで38万円の利益を上げられたことになります。IPOの当選株数は241,500株ですので、当選本数は2,415本でした。
このIPOは、当選本数は少ないですが、当選すれば大きな儲けが出た銘柄でした。
例2.IPOの当選本数が多い銘柄は、初値が高くならない
2016年6月に「コメダホールディングス」が上場したときを例に説明します。「コメダホールディングス」の事業内容は、「珈琲(コーヒー)所コメダ珈琲店」チェーンなどを運営する子会社の経営管理などです。
「コメダホールディングス」の公募価格は1,960円、初値が1,867円でしたので、100株取得で初値売りで9,300円の損をしたことになります。IPOの当選株数は30,700,000株数ですので、当選本数は307,000本でした。
このIPOは、当選本数が多いので当たりやすいですが、買って初値売りをすると損をしていました。
管理人がIPOの当選本数について考えていること
管理人は、当選本数が10万本を超える銘柄のとき、IPOの申し込みをしないことも多いです。
なぜなら、上場規模が大きすぎると、IPOに当選はしやすいですが、初値売りで損をしてしまう可能性が高いからです。
このように、IPOの当選本数が少ないほど、初値が高くついて儲けが大きくなります。目論見書を見るときには、IPOの当選本数や上場規模にも注意する必要があります。
3.IPO企業の事業内容(強みや独自性、新規性)
事業内容に強みや独自性、新規性があるときに、IPOの初値が高くなります。
なぜなら、事業内容に特色があるときは、投資家が企業の成長に期待をするためです。企業が成長をしていけば、将来的に株価も上がっていくため、事業内容が良い会社の銘柄は買われやすいのです。
ここで、事業内容に新規性・強みがあるときとないときを例に、初値を見ていきましょう。
例1.事業内容に新規性・強みがあるIPOは、初値が大きく上昇
2016年9月に「シルバーエッグ・テクノロジー」が上場しました。「シルバーエッグ・テクノロジー」の事業内容は、AI(人工知能)技術を基にしたウェブマーケティングサービスの開発・提供です。事業内容に新規性があり、将来的に期待が持てます。
「シルバーエッグ・テクノロジー」の公募価格は900円、初値が2,622円でしたので、100株取得で初値売りで17万2千2百円の利益を上げられたことになります。
例2.事業内容がイマイチなIPOは、初値が高くならない
「マーキュリアインベストメント」は2016年10月に上場しました。「マーキュリアインベストメント」の事業内容は、ファンド運用事業、自己投資事業であり、主に不動産投資を行っています。正直あまり、事業内容に新規性や強みを感じられません。
「マーキュリアインベストメント」の公募価格は1,450円、初値が1,390円でしたので、100株取得で初値売りで6,000円の損をしたことになります。
このように、事業内容に強みや独自性、新規性があるときには、IPOの初値が高くなります。一方、事業内容がありふれていてイマイチなときは、初値が上がりません。
目論見書を見るときには、事業内容をしっかりと見ることをおすすめします。
4.IPO企業の過去5年以上の企業業績
IPOの初値が高くなる条件に、企業業績が良いことが挙げられます。
なぜなら、企業の業績がしばらく悪いときにIPOの募集をしても、買い手となる投資家が少なく、高い初値がつかないからです。
ここで、上場後に企業が利益を出していけるかを判断するために、過去5年以上の業績を見ます。理想を言えば、過去5年以上において、増収増益であれば問題ありません。
管理人は、特に「売上高」と最終利益である「当期純利益」に注目しています。
ここで、創業して間もない企業であれば、赤字の年が出ることもよくあります。それは、新規性のあるビジネスでも収益化がまだできていないことがあるからです。
そのため、利益はまだ出ていないが、将来性のあるビジネスをしている企業であれば、IPOに応募をしても問題ないと考えています。
しかし、直近で3年連続で赤字だった企業のIPOに応募をするときは、公募割れをして損をしないかを注意する必要があります。公募割れとは、初値が公募価格を下回ることです。
このように、IPOの初値が高くなるためには、企業の業績が良いことが条件となります。目論見書を見るときには、企業業績の推移に目を通しておくと良いでしょう。
5.IPOの株主構成、ロックアップ契約
IPOの株主構成や、ロックアップ契約の有無について確認しましょう。
ロックアップ契約があるときは、既存株主からの売り出しがなくなり、IPOを買いたい人が多くなるため、上場後の初値は高くなります。
ロックアップとは、株式上場後の一定期間、既存株主が株式を売らない契約を結ぶことです。既存株主とは、会社役員、大株主、ベンチャーキャピタル(ベンチャー企業に資金提供する機関)などです。
実際に、ロックアップ契約は、上場後すぐに株式が市場に流れるのを防ぎ、株価が急激に下がらないようにするために結ばれます。この契約があることで、他の投資家が上場後に安心して買い注文を入れることができます。
ロックアップ契約は、90日間や180日間になることが多いです。この期間、既存株主は、株を売ることができません。
ただし、一部の株主には、「公募価格の1.5倍」を超えたら、ロックアップ契約が外れるようになっていることもあります。この株主比率が高くなると、ロックアップ契約の意味が薄れてしまうので注意が必要です。
まとめると、ロックアップ契約があるときは、投資家が好感を持ち、相場も良い状態となります。目論見書を見るときには、ロックアップ契約について見ておくことを忘れないでください。
目論見書以外で初値に影響する要因2つに注意しよう
管理人は、IPO投資をするとき、目論見書以外で注意している点が大きく2つあります。
要因1:公募価格が仮条件の「下限」で決まったとき
目論見書を見る段階では分からないのですが、IPOの公募価格が仮条件の「下限」で決まった銘柄は初値売りで損をしやすいです。なぜなら、このような銘柄は人気がないので、買い手が少ないからです。
一般的に、公募価格は仮条件の「上限」で決まりますが、需要申告の金額が低くて人気がない銘柄は、「下限」で決まったりもします。
私は、公募価格が「下限」で決定した銘柄の場合、初値売りで損をする可能性が高いとみて、購入申込をキャンセルすることが多いです。
この公募価格は、IPOのブックビルディング期間後にわかるため、一度は抽選に参加をすることになりますが、当選していたときはキャンセルすることも重要です。
つまり、IPO銘柄が人気か不人気かは、目論見書には書かれていませんが、初値に大きく影響する要因なのです。
要因2:株式市場の相場、他のIPOの同日上場などの外的要因
目論見書には書かれていないのですが、外的要因が初値に影響することがあります。
外的要因①:日経平均などの株式相場、IPO相場
日経平均株価などが上昇傾向にあるときなど相場が良いときは、IPOの初値も高くなる傾向にあります。
逆に、株式市場の相場が悪い状況だと、IPO銘柄は良くても、そこまで初値が高くならないことがあります。
また、IPO相場は、直近で上場した複数IPOの初値を見れば、好調なのかイマイチなのかがわかります。IPO相場が好調のときは、そこまで魅力的でないIPOでも意外と高い初値になります。
一方、IPO銘柄は良くても、IPO相場が悪いときは、思ったより初値が上昇しないことも多々あります。
このように、IPOに申し込むときに、今の株式相場やIPO相場にも注意をしましょう。
外的要因②:同日上場の他のIPOの存在
もう一つ外的要因で考えるべきことは、他のIPOが同じ日に上場していないかです。特に、IPOの上場ラッシュである12月や3月に多いことなのですが、たまに同じ日に3つのIPOが上場することもあります。
このようにIPOが同時に上場すると、予想より初値が高くなりにくくなります。なぜなら、投資家の資金(需要)が分散してしまうからです。
本来であれば、人気のIPOで買いの注文が多く入る銘柄でも、他にもIPOがあると買いの注文が少なくなってしまいます。そのため、思っていたより、初値が大きく上昇しにくいのです。
このような内容は、目論見書には書かれていない外的要因なのですが、IPOの初値に影響します。そのため、目論見書の内容に加えて、外的要因もチェックしてIPOに申し込むようにしましょう。
まとめ
このページでは、IPO投資をするとき、損をしないための目論見書の見方を解説しました。もう一度、おさらいをしますと以下のとおりです。
1.IPO企業の上場する株式市場はどこか
→マザーズやジャスダックなどの新興市場に上場する銘柄は、初値が高くなる
2.IPOの当選本数、上場規模
→IPOの当選本数が少なく、上場規模の小さい銘柄は、高い初値がつく
3.IPO企業の事業内容(強みや独自性、新規性)
→事業内容に特色がある銘柄は、初値が高くなりやすい
4.IPO企業の過去5年以上の企業業績
→企業業績の悪いIPO銘柄は、公募割れをして損する可能性がある
5.IPOの株主構成、ロックアップ契約
→ロックアップ契約がある銘柄は、公募割れをしにくい
私も、上記の内容に注意してIPO投資を積極的にやっています。
加えて、目論見書の内容以外で初値に影響する要因にも注意しています。せっかく、IPOに当選をしても、銘柄分析の失敗が原因で損をしてしまうのは残念ですから。
このように、チェックする内容が多いので、最初はIPOに申し込むのに時間がかかるかもしれません。
しかし、目論見書の見方に慣れると、IPO銘柄の分析も速くできるようになり、より多くのIPOに申し込めるようになります。
また、当サイトでも、上記のポイントに基づきIPO初値予想をお伝えしています。
良ければ、以下のページをブックマークしておいてください。随時、IPO情報・初値予想・幹事証券をお伝えします。時々ページを見ていただくだけで、企業ごとに初値予想のページに飛ぶことができます。
IPOの目論見書を見終わったらやるべきこと2つ
IPOの目論見書が見終わって、IPOに申し込もうと決めたときにやるべきことが2つあります。
IPOスケジュールの確認
IPOの申込期間、上場日などのIPOスケジュール確認をしましょう。
特に、IPOの申込期間に実際に申し込みをしないと、目論見書を読んだ意味がなくなってしまいますから。
ここで、IPOの申込期間は、証券会社によって異なりますので、それぞれ確認する必要があります。
IPOの主幹事証券、幹事証券の確認
目論見書などから、どこの証券会社からIPOに申し込めるのかを確認しましょう。
例えば、「RPAホールディングス」が上場するときの主幹事証券(SBI証券)、幹事証券は、画像のとおりです。
今回のIPO幹事証券は多い方です。しかし、幹事証券は数社と限られていることも多いです。そのため、IPO取扱実績が多い証券口座を多く保有することが、IPOの抽選機会を増やすカギになります。
ここで、目論見書を読んでから証券口座を開設しようとすると、IPOの申し込みに間に合わないことも考えられます。できれば早めに口座を開設しておき、いつでもIPOに申し込めるように準備しましょう。